COPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪時に抗菌薬(抗生物質)を投与しないと決断する上で、CRPは有用なのか
COPDが増悪した際に抗菌薬を投与するかの判断基準として、1987年に提唱されたAnthonisenらの基準があります。息切れの悪化、痰の量の増加、膿性痰の増加の3つが揃っているか、膿性痰を含む2つが該当する場合に抗菌薬の使用が推奨されています。しかし、Anthonisen基準は確固たるエビデンスに基づいているわけではありません。
今回紹介するPACE試験では、CRP(炎症マーカーの一つ)がCOPD増悪に対し抗菌薬投与の判断基準となりうるかを検証しています。PACE試験で採用されたCRPの基準は、CRPが2mg/dL未満のとき抗菌薬投与を推奨せず、4mg/dLより高値であれば抗菌薬投与を推奨、2~4㎎/dLの場合で膿性痰があれば抗菌薬投与を推奨するというものです。先週紹介したプロカルシトニン研究ではアメリカの有名病院の救急センターが対象であったのに対し、PACE試験ではイギリスにある86のクリニックのプライマリケア医を対象としています。
その結果、CRPをガイドに治療を行うと、抗菌薬の投与を約20%の患者で減らすことができ、その後の経過(COPDに関連する症状や生活の質)は同様でした。逆に言うと、CRPを使わない通常診療では、2割の患者に不要な抗菌薬を使用していると解釈ができるかもしれません。Anthonisen基準の項目が2つまたは3つ該当していても、CRPが低値であれば抗菌薬を投与しなくてもよいということになりますが、重症の細菌感染症やごく早期の細菌感染症ではCRPが低値であることを経験しますので、CRPを参考にしつつもCRPだけで判断することには危険性を感じます。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪時に抗菌薬を投与しないと決断する上で、CRPは有用なのか(PACE試験)
N Engl J Med 2019; 381 : 111 – 20.
背景
C 反応性蛋白(CRP)を迅速に検査すれば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が増悪した患者に不利益を与えずに、抗菌薬の不適切使用を減少させることができるかもしれない。
方法
プライマリケア医のカルテ上で COPD と診断されている患者のうち、COPD が急性増悪し、イングランドとウェールズにある86の一般医療機関の一つを受診した患者を対象として、多施設共同非盲検無作為化比較試験を行った。CRP の迅速検査結果に基づいて通常治療を行う群(CRPガイド下治療群)もしくは、CRP検査をせずに通常治療を行う群(通常治療群)のいずれかの群に患者を割り付けた。主要評価項目は二つあり、患者申告に基づき無作為化後4週間以内にCOPD急性増悪に対して抗菌薬を使用した割合(優越性を示すため)、および無作為化後2週目におけるCOPD関連健康状態の差異(非劣性を示すため)とした。10項目を 0(非常に良好なCOPDの健康状態)~ 6(きわめて不良なCOPDの健康状態)の点数で評価する臨床COPD質問票(CCQ)用いてCOPD関連健康状態を測定した。
結果
合計653例が無作為化された。抗菌薬使用を申告した患者の割合は、CRPガイド下治療群の方が通常治療群よりも少なかった(57.0% 対 77.4%、補正オッズ比0.31、95%信頼区間 [CI] 0.20 ~ 0.47)。2週目におけるCCQの合計点(補正後)の差は、平均 -0.19点(両側90% CI -0.33 ~ -0.05)であり、CRPガイド下治療群の方が良好であった。1 例を除く全例で初診担当医が抗菌薬の処方を決定しており、追跡期間である当初4週間に発行された抗菌薬の処方箋は96.9%の患者で確認された。初診時に抗菌薬を処方された患者の割合(CRPガイド群47.7%、通常治療群69.7%、その差22.0パーセントポイント、補正オッズ比 0.31、95% CI 0.21~0.45)および、追跡4週間で抗菌薬処方を処方された患者の割合(CRPガイド下治療群59.1%、通常治療群79.7%、その差20.6パーセントポイント、補正オッズ比0.30、95% CI 0.20~0.46)は、CRPガイド下治療群が通常治療群より低かった。試験参加とは関係ない原因で通常治療群の2例が無作為化後4週間以内に死亡した。
結論
プライマリケアクリニックにおいてCRP検査値をガイドとして抗菌薬を処方すると、抗菌薬を使用したと申告した患者の割合と、担当医から抗菌薬の処方箋を受けとった患者の割合が低下し、患者への不利益は示されなかった。(英国国立医療研究機構 医療技術評価プログラムから研究助成あり。PACE試験:Current Controlled Trials 登録番号 ISRCTN24346473)
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)