下気道感染(肺炎や気管支炎など)に対して抗菌薬(抗生物質)を使用するかしないかの意思決定に、プロカルシトニンは役に立たないのか
そこで、細菌感染を診断するために、CRPより感度特異度ともに優れている検査としてプロカルシトニンが開発され、日本でも測定できるようになりました(保険適応病名は敗血症のみ)。今回紹介する論文では、肺炎や気管支炎、COPD急性増悪、喘息増悪といった下気道感染を疑う疾患で抗菌薬を使用するか悩んだとき、プロカルシトニン値が有用かを検証しています。先に結論を言ってしまえば、プロカルシトニン値を知っていても知らなくても抗菌薬使用の意思決定が同じであった、つまりプロカルシトニンは有用ではなかったという結果でした。
しかし、注意すべきは今回の研究実施施設です。参加した米国の14の病院は、大学病院やベス・イスラエル病院、マサチューセッツ総合病院など有名な教育系病院のみです。プロカルシトニンを使用しなくても、抗菌薬を使用するしないについて厳しく指導管理されている病院だと推定します。
実際、プロカルシトニン値を知らされていない通常治療群においても、抗菌薬の使用状況がプロカルシトニン値を知っているかのような動向となっており、施設のレベルの高さを窺わせます。また、プロカルシトニン群に割り当てられた場合でも、プロカルシトニン値による抗菌薬使用ガイド通りに抗菌薬を使用した患者の割合は多くて80%、少ない病院では40%しかありませんでした。抗菌薬を実際使用するかは担当医の最終判断に任されているからです。
高い医療レベルであればプロカルシトニンは不要だと解釈すれば、しっくりくる研究結果だと思います。通常のクリニック、特に抗菌薬適正使用が問題となっている日本において同じ研究をすれば、異なる結果になるのかもしれません。
下気道感染(肺炎や気管支炎など)に対して抗菌薬(抗生物質)を使用するかしないかの意思決定に、プロカルシトニンは役に立たないのか
N Engl J Med 2018; 379 : 236 – 49.
背景
プロカルシトニンの値に応じた抗菌薬の使用方法が、下気道感染が疑われる患者の治療に影響があるかは明らかではない。
方法
肺炎治療の質が高い米国の14病院の臨床医に対し、下気道感染に対し米国内で推奨される治療はなにか、プロカルシトニン検査の結果をどう解釈するかをまず指導した。その後、下気道感染疑いで救急を受診した患者のうち、抗菌薬を投与するべきか担当医が確信できなかった症例を登録し、プロカルシトニン群もしくは通常治療群のいずれかに無作為に割り付けた。プロカルシトニン群では初回プロカルシトニン検査の結果をすぐに担当医に報告し(患者が入院した場合は連続で報告)、プロカルシトニン値を4段階に分けて抗菌薬使用の有無を段階的に推奨するガイドラインを提供した。プロカルシトニン群は通常治療群と比較して、登録後30日以内の抗菌薬の総投与日数が少なく、有害事象を発生した患者が4.5%を超えて高くならないという仮説を立てて検証した。
結果
1,656例が最終解析コホートの対象とし、826例をプロカルシトニン群、830例を通常治療群に無作為に割り付けた。そのうち782例(47.2%)が入院し、984例(59.4%)が30日以内に抗菌薬を投与された。担当医がプロカルシトニン値の報告を受けた患者数はプロカルシトニン群826例の内792例(95.9%)(検体採取から検査結果入手までの時間の中央値は77 分)、通常治療群830例の内18例(2.2%)であった。両群ともプロカルシトニン値と、救急での抗菌薬処方の判断は関連していた。プロカルシトニン群と通常治療群で比較すると、30日以内の抗菌薬投与日数(それぞれ平均4.2日と4.3日、その差は-0.05日[95%信頼区間は-0.6~0.5日]、P=0.87)や、30日以内に有害事象を起こした患者の割合(11.7%[96例]と13.1% [109 例]、その差は-1.5%、95%信頼区間は-4.6~1.7%、非劣性のP<0.001)に、有意差は認められなかった.
結論
プロカルシトニン検査値を結果解釈の説明とともに救急医と病院勤務医に提供しても、下気道感染が疑われる患者での抗菌薬使用は減少せず、通常治療と同様であった。(国立総合医学研究所から研究助成あり。ProACT試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02130986)
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)