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アルコール使用障害(アルコール依存症含む)があると、肺炎は重症化するのか

[2019.06.23]

 

しかしながら、AUDが肺炎に直接影響していることを示した大規模な研究はほとんどなされていませんでした。今回の論文は、4700人のAUDをもつ肺炎患者と、13万人のAUDをもたない肺炎患者の臨床経過を比較した大規模後ろ向きコホート研究を報告しています。

 

まず、AUD合併肺炎の起炎菌(原因菌)として当初予想された肺炎桿菌などグラム陰性桿菌はAUDの有無で変わらず、肺炎の原因として最もよくみられる肺炎球菌がAUD患者で多いという結果でした。アルコール摂取と言えば肺炎桿菌肺炎という考え方はもう古いのかもしれず、改める必要がありそうです。

 

次に、AUDがあると肺炎が重症化し、集中治療室(ICU)で昇圧剤や人工呼吸器を使用したりすることが増え、入院日数が延長し、医療費も増加していました。しかし、AUDあるなしで患者背景に差があるため、これだけではAUDと肺炎重症化が直接関連していることは言えず、色々な調整因子を加味する必要がありました。後ろ向きコホート研究の難しいところだと思います。

 

今回の研究で採用したAUDの診断基準では、長期的にお酒を毎日飲み続ける依存症のような患者のみならず、飲み始めると飲み過ぎてしまうが毎日ではないような患者も含まれています。AUDのある肺炎患者は年齢が若い傾向にあったため、年齢などで調整したところ、まだAUDと肺炎予後に関連性を認めました。しかし、合併症と耐性菌の有無で調整を加えると、AUDと肺炎予後に関連性はなくなりました。AUDのある肺炎患者では肝臓病やCOPDの合併が多い傾向、AUDがないと心不全や糖尿病など重症化リスクが高い疾患の合併が多い傾向があり、合併症の種類に差があるからだと思われます。

 

一口にAUDと言ってもアルコール依存症から飲み会で飲みすぎてしまう人まで多様な人が含まれるため、AUDのみが肺炎重症化の予測因子として証明することが困難であったと考えられます。ただし、アルコール離脱症状があれば、調整因子の有無に関わらず、肺炎が重症化していました。

 

アルコール使用障害単独では肺炎の重症化や死亡を予測することはできません。アルコール摂取がどの程度であったかを詳しく聞き、治療経過中にアルコール離脱症状がないかを観察することが、主治医として患者の重症化を予測するために重要と考えられます。

 

アルコール使用障害(アルコール依存症含む)があると、肺炎は重症化するのか

JAMA Netw Open. 2019;2(6):e195172.

doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.5172

 

疑問点

アルコール使用障害患者における肺炎の原因は何か?また、アルコール使用障害と予後不良は関連しているか?

結果

137,496例の肺炎患者を対象とした今回のコホート研究では、アルコール使用障害を合併した肺炎の最も多い原因菌は肺炎球菌であり、薬剤耐性グラム陰性菌感染はまれであった。併存疾患調整モデルではアルコール使用障害は入院中の死亡率と有意に関連していなかったが、アルコール離脱症状のあるアルコール使用障害患者では治療後半での人工呼吸管理や血管拡張剤、集中治療室管理を必要とし、入院期間と入院費用が増加した。

解釈

今回の研究では、アルコール使用障害だけでは耐性菌感染または死亡の独立危険因子とはならないことを示唆されたが、アルコール離脱症状は病状悪化および医療資源利用増加に関連していた。

要旨

重要性

アルコール使用障害(AUD)患者は肺炎を発症するリスクが高いが、AUD患者の肺炎の転帰を評価した研究はほとんどない。

目的

AUDの有無にかかわらず、患者の肺炎の原因、治療、および転帰を比較すること。併存疾患やアルコール離脱、アルコール自体による残留効果と、患者の転帰との関連を理解すること。

デザイン、設定、および参加者

プレミアヘルスケアデータベースに参加している米国にある177の病院において、2010年7月1日から2015年6月30日までに入院した18歳以上の肺炎患者137,496人を対象に後ろ向きコホート研究を実施した。 統計学解析は2017年10月27日から2018年8月20日まで実施された。

提示事項

アルコール使用障害は国際疾病分類、改訂第9版、臨床修飾コードから特定された。

主な結果と測定値

肺炎の原因、抗菌薬治療、入院患者の死亡率、臨床的病状悪化、入院期間、および費用。 AUDとこれらの変数との関連付けは、一般化線形混合モデルを使用して調べた。

 

結果

市中肺炎の患者137,496人(女性70,358人、男性67,138人、平均年齢[SD]、69.5歳[16.2])の3.5%がAUDを有していた。 AUD患者は、AUDを有しない患者よりも若く(中央値、58.0対73.0歳; P <0.001)、男性が多く(77.3%対47.8%; P <0.001)、主要な診断は誤嚥性肺炎(10.9%vs 9.8%; P <0.001)や敗血症(38.6%vs 30.7%; P <0.001)、呼吸不全(9.3%vs 5.5%; P <0.001)で多かった。培養検査では肺炎球菌が多く(43.7%対25.5%; P <0.001)、ガイドラインで推奨される抗菌薬に耐性の菌は少なかった(25.0%対43.7%; P <0.001)。 AUD患者はピペラシリン/タゾバクタムでよく治療されていたが(26.2%対22.5%; P <0.001)、抗MRSA薬の使用はAUDのない患者と同様であった(32.9%対31.8%; P = .11)。 人口統計学的特性および保険の種類で調整した場合、AUD患者は死亡率が高く(オッズ比1.40、95%CI、1.25-1.56)、入院期間(リスク調整後幾何平均比1.24、95%CI、1.20-1.27)および入院費用(リスク調整後の幾何平均比、1.33; 95%CI、1.28〜1.38)と関連していた。合併症と耐性菌に対する危険因子の差でさらに調整すると、AUD患者は死亡率とは関連しなくなったが、治療後半での人工呼吸管理(オッズ比1.28、95%CI、1.12-1.46)および入院期間(リスク調整後幾何平均比、1.04; 95%CI, 1.01〜1.06)、入院費(リスク調整後幾何平均比 1.06; 95%CI 1.03〜1.09)とは関連していた。アルコール離脱症状のある患者を分離したモデルでは、AUD患者のなかでもアルコール離脱症状のあるサブグループで結果が悪いことが示された。

結論と関連性

本研究では、AUDを有しない市中肺炎入院患者と比較して、AUDを有する患者は耐性菌を保有する頻度が低いことが示唆された。 AUD患者において、年齢調整死亡リスクが高いのは主に合併症の違いに起因すると思われるが、医療資源がより多く使用されているのはアルコール離脱症状に起因する可能性がある。

 
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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