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軽症の喘息では、ブデソニド+ホルモテロール(シムビコート®)の必要時吸入療法とブデソニド(パルミコート®)吸入維持療法のどちらが有効なのか(SYGMA2試験)

[2019.06.02]

先週はSYGMA1試験を紹介しました。今週はSYGMA1試験と同時に実施され、昨年のNEJM誌の同じ号で同時に発表されたSYGMA2試験を紹介します。

 

SYGMA1とSYGMA2の結論はほぼ同じです。シムビコート®の必要時吸入療法はパルミコート®定期吸入と同様に喘息発作を抑えることはできるが、症状コントロールはパルミコート®定期吸入の方が優るということです。では、両試験の類似点、相違点について説明していきたいと思います。

 

両試験ともイギリスの製薬企業であるアストラゼネカ社の資金提供を得て実施され、同社の薬剤であるシムビコート®とパルミコート®が使用されています。どちらもプラセボ(偽薬)を用いた二重盲検比較試験であり、患者さんも主治医も臨床試験中に使用した薬剤がシムビコート®なのかパルミコート®なのか分からないようになっていました。欧米の喘息ガイドライン(GINA2012)におけるStep2の治療を要するような軽症喘息の患者さんが対象であることも同じです。

 

最も異なる点として、SYGMA1では3つの治療法を比較したに対し、SYGMA2では2つの治療法を比較したことです。SYGMA1ではテルブタリン必要時吸入のみという治療群があり、テルブタリン必要時吸入法よりもシムビコート®必要時吸入法が優越であることを示しました。SYGMA2の試験開始時はシムビコート®必要時吸入がパルミコート®定期吸入よりも優越であることを示す予定でした。しかし、想定よりも定期吸入の遵守率が良く喘息発作の発生率が低かったため、途中から優越性ではなく非劣性を示すことに変更されました。勝つ(優越性)ことを証明するよりも負けない(非劣性)ことを証明する方が、サンプル数(登録患者数)が少なくて済むからです。

 

SYGMA2はSYGMA1より“pragmatic(実際的な)”研究デザインにしたと論文に書いてあり、毎日吸入してもらうように患者さんに注意喚起するようなことはしなかったようです。その結果、1日2回の定期吸入(ブデソニドまたはプラセボ)のアドヒアランス(遵守率)はSYGMA1では約79%、SYGMA2では約63%でした。実際の診療現場では吸入の遵守率は35%以下と過去に報告されており、SYGMA2での63%は想定外だったと思われます。そのため、喘息発作の発生率が事前予想より低くなってしまったのでしょう。

 

以下は論文要旨の和訳です。

軽症の喘息では、ブデソニド+ホルモテロール(シムビコート®)の必要時吸入療法とブデソニド(パルミコート®)吸入維持療法のどちらが有効なのか(SYGMA2試験)

 N Engl J Med 2018; 378 : 1877 – 87.

 

背景

軽症喘息患者は症状を和らげるための短時間作動性β2 刺激吸入薬に頼ってしまうことがよくあり、維持療法へのアドヒアランスが悪い。症状や増悪のリスクに対処するため、即効型の症状緩和薬+吸入ステロイド成分を必要時に吸入することがもうひとつの治療法となるかもしれない。

方法

我々は52 週間の二重盲検多施設共同試験を実施した。対象患者は、軽症喘息であり吸入ステロイドの定期投薬が適していた12歳以上の患者とした。患者は2つの治療群、つまり、プラセボ1日2回吸入+ブデソニド-ホルモテロール(ブデソニド200μg+ホルモテロール6μg)必要時吸入群、またはブデソニド(200μg)1日2回吸入によるブデソニド維持療法+テルブタリン(0.5 mg)必要時吸入群のうち一つに無作為に割り付けられた。主要な解析は、重症の喘息増悪の年間発生率がブデソニド-ホルモテロール必要時吸入療法とブデソニド維持療法とで差があるか比較することとした。非劣性限界は1.2と事前に規定した。症状評価は、喘息管理質問票(ACQ-5)における0(障害なし)から6(最大の障害)の点数を用いた。

結果

合計4215例が無作為化された。4176例(ブデソニド-ホルモテロール群2089例、ブデソニド維持療法群2087例)が完全解析集団に含まれた。ブデソニド-ホルモテロールの必要時吸入療法は、重症の増悪についてブデソニド維持療法に対して非劣性を示した。重症増悪の年間発生率はそれぞれ0.11(95%信頼区間 [CI] 0.10~0.13)と0.12(95% CI 0.10~0.14)であった(発生率の比 0.97,上方片側95%信頼限界 1.16)。1日あたりステロイド吸入の測定量の中央値は、ブデソニド-ホルモテロール群(66μg)の方がブデソニド維持療法群(267μg)よりも少なかった。初回の喘息増悪までの期間は 2 群間で同様であった(ハザード比0.96; 95% CI, 0.78~1.17)。ACQ-5スコアが変化した差は0.11単位(95% CI, 0.07~0.15)であり、ブデソニド維持療法の方が良好であった。

結論

軽症喘息患者ではブデソニド-ホルモテロールの必要時吸入療法は、ブデソニド1日 2回吸入療法に対して、52週の治療期間中の重症喘息増悪発生率に関して非劣性を示した。しかし、症状コントロールに関しては劣性であった。ブデソニド-ホルモテロール群はブデソニド維持療法群の約1/4の吸入ステロイド曝露量であった。(アストラゼネカ社より資金援助あり。SYGMA2試験、臨床試験番号 NCT02224157)

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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