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ハイリスクのCOVID-19患者に対する吸入ブデソニド療法(PRINCIPLE試験;LANCET誌の報告)

[2021.09.12]

2021年7/31時点での日本感染症学会による「COVID-19に対する薬物治療の考え方」は下図のようになります。

一見して分かるのは、中等症以上は治療選択肢が多いのに、軽症患者は抗体製剤(カシリビマブ+イムデビマブ)のみです。(前回のブログ記事参照)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) に対する抗体カクテル療法とは;カシリビマブ+イムデビマブ (ロナプリーブ)による治療

抗体製剤は大変高額な薬であり、1回注射するのに数十万円の費用がかかります。投与するには厳密な基準があり、そう簡単に(開業医レベルで)処方できません。そのため、現時点ではCOVID-19の感染が判明しても、ほとんどの患者さんは解熱剤など対症療法のみで自宅やホテルに隔離されているのです。

 

そこで、もっと安価で気軽に投与できる薬が待たれているのです。そのひとつ、アビガンは苦戦していますが、おそらく承認されるのではないかと期待されています。

 

1年以上前に話題になった薬にシクレソニド(オルベスコ?)があります。シクレソニドは吸入ステロイド薬の一つで、ぜん息に対してよく使用されている薬です。基礎実験で効果が期待されたのですが、その後の臨床試験で効果を見いだせず、COVID-19に対して承認されることは難しいと思われます。

 

今回紹介する論文では、シクレソニドと同じ吸入ステロイド薬である、ブデソニド(パルミコート?)のCOVID-19に対する効果を検証した臨床試験です。

 

通常治療のみと比較して、通常治療+吸入ブデソニドによる治療をした患者では、COVID-19による有症状期間が2.9日短縮したという結果でした。統計学的に有意差があり、有効性が確認されました。対象は65歳以上、または合併症のある50歳以上の、入院していない外来患者でした。

 

 

にわかには信じがたい結果なのですが、なぜ効くのか、論文には下記のような記載があります。

「吸入ステロイドの抗炎症作用は肺を標的にしており、SARS-CoV-2による気道上皮細胞への侵入に関係するACE-2やTMPRSS2の発現を抑えることができると考えられている。また、in vitro実験において、吸入ステロイドが上皮細胞でのSARS-CoV-2の複製を減少させると示されている。」

 

→新型コロナウイルスは気管支~肺にある上皮細胞の膜にある受容体(ACE-2)にまず接着したのち、細胞内に侵入します。吸入ステロイドはその受容体を減らす作用があると考えられているのです。 

 

今回の研究は、実際の臨床現場に近い状況で無作為化試験を行っています。そのため、プラセボを対照においていません。吸入ブデソニドがプラセボ効果を示した可能性が否定できないことに要注意です。

 

Inhaled budesonide for COVID-19 in people at high risk of complications in the community in the UK (PRINCIPLE): a randomised, controlled, open-label, adaptive platform trial

英国の地域社会でハイリスクのCOVID-19患者に対する吸入ブデソニド療法(PRINCIPLE):無作為化比較非盲検適応プラットフォーム試験

 

ARTICLES| VOLUME 398, ISSUE 10303, P843-855, SEPTEMBER 04, 2021

Published:August 10, 2021

DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01744-X

 

概要

背景

以前の有効性試験において非入院COVID-19患者に対して吸入ブデソニドの効果を認めたが、高リスク患者での吸入ブデソニドの有効性は不明である。一般社会での合併症リスクが高い集団において、病状回復までの時間および、COVID-19関連の入院または死亡を、吸入ブデソニドが減少させるか立証することを我々の目的とした。

方法

PRINCIPLE試験は、多施設共同、非盲検、複数群、無作為化、対照、適応プラットフォーム試験であり、中央試験施設から英国のプライマリーケアセンターにおいて遠隔で実施された。対象は、65歳以上または合併症のある50歳以上、COVID-19が疑われる状態で14日以内に発症したが未入院患者とした。参加者は通常治療群、通常治療および吸入ブデソニド(800μg、1日2回、14日間)群、通常治療およびその他の介入群に無作為に割り付けられ、28日間のフォローアップが行われた。参加者は割付られた治療群を知らされた。主要評価項目は自己申告による最初の症状回復までの期間、およびCOVID-19に関連した28日以内の入院または死亡であり、ベイズモデルを用いて解析した。プラットフォーム試験の開始からブデソニド群が終了するまで、ブデソニド、通常治療、その他の介入に無作為に割り付けられた、SARS-CoV-2陽性の全適格参加者を主要解析対象とした。本試験はISRCTNレジストリ(ISRCTN86534580)に登録されており、進行中である。

調査結果

本試験は2020年4月2日に登録を開始し、ブデソニドへの無作為化割付は2020年11月27日から、事前に規定された症状回復までの時間の優越性基準を満たした2021年3月31日まで行った。4700人の参加者を、ブデソニド(n=1073)、通常治療のみ(n=1988)、その他の治療(n=1639)に無作為に割り付けた。一次解析モデルにはSARS-CoV-2陽性の参加者2530人が含まれ、ブデソニド群が787人、通常治療群が1069人、その他の治療群が974人であった。自己申告による最初の症状回復までの期間は、ブデソニド群は通常治療群よりも推定2.94日(95%ベイズ信頼区間[BCI] 1.19~5.12)優っており(11.8日 [95%BCI 10.0~14.1] 対 14.7日 [12.3~18.0]、ハザード比1.21 [95%BCI 1.08~1.36])、優越性の確率は0.999を超え、事前に規定した優越性の閾値0.99を満たした。

 入院または死亡のアウトカムについては、ブデソニド群で6.8%(95%BCI 4.1~10.2)、通常治療群で8.8%(5.5~12.7)(推定絶対差2.0%[95%BCI -0.2~4.5]、オッズ比 0.75 [95%BCI 0.55~1.03])となり、優越性の確率は0.963で、事前に規定した優越性の閾値である0.975を下回った。ブデソニド群では2名、通常治療群では4名に重篤な有害事象(COVID-19とは無関係の入院)が発生した。

解釈

一般社会における合併症リスクの高いCOVID-19患者において、吸入ブデソニドは回復までの時間を短縮し、入院や死亡を減少させる可能性がある(ただし、今回の結果は優越性の閾値を満たしていない)。

資金提供

米国国立衛生研究所および英国研究イノベーション。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

新型コロナについても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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