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KRAS変異をもつガンに有効な薬がついに登場(NEJM誌の報告)

[2021.07.18]

KRASは細胞が増殖するために必要な増殖シグナルを伝達するタンパク質の一種です。正常な細胞では増殖しすぎないように、KRASによる増殖シグナルのスイッチのオンとオフが厳密に制御されています。

しかし、このKRASに遺伝子変異がおこると、増殖シグナルのスイッチが常にオンになってしまい、細胞が無限に増殖するガン細胞に変化します。実際、肺がんや大腸がん、膵がんの多くで、KRAS遺伝子の変異が見つかっています。

 

遺伝子異常をもつガンに対して、その遺伝子を狙い撃ちにする薬(分子標的治療薬)が近年着々と開発されています。例えば、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、MET遺伝子異常が原因となる肺がんに対し、ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ、アレクチニブなどが治療薬としてすでに使用されています。

分子標的薬は、概して治療効果が高く、有害事象(副作用)が軽いことが特徴です。しかし、EGFR遺伝子変異は日本人肺腺癌の約50%(欧米では約10%)に認められるものの、ALKやROS1、BRAF、MET遺伝子の異常は1〜3%と頻度が少ないのが問題でした。

 

KRAS変異は、約10%の日本人肺腺がん患者(欧米では20-30%)で認められ、EGFR変異に次いで、頻度の高いものになります。多くのガンの原因となっていることが分かっていたので、KRAS変異をターゲットにした治療薬の登場は待ち望まれていました。

 

今回紹介するSotorasib(ソトラシブ)は、KRAS遺伝子変異のうち「G12C変異」を標的とする1日1回投与の経口薬です。第Ⅱ相試験において、37.1%の奏効率を示し、奏効期間の中央値は11.1カ月、無増悪生存期間の中央値は6.8カ月、80.6%の患者で病勢コントロールが得られました。有害事象のほとんどはグレード2以下で、安全性と忍容性も良好だったと報告されています。

しかし、問題はその薬剤耐性です。

 

NEJM誌の同じ号に、もう一つのKRAS阻害剤Adagrasib(アダグラシブ)で治療を受けた肺がんや大腸がんの患者に、耐性変異が多く認められたことが報告されています。アダグラシブ治療を受けた38人の患者(肺がん27人、大腸がん10人)のうち、17人に耐性を引き起こす可能性のある分子病変が確認されています。

 

KRAS阻害剤には、有効性が期待されるのと同時に、乗り越えないといけない壁がすでに示されているのです。

 

KRAS p.G12C変異を有する肺癌に対するソトラシブ

Sotorasib for Lung Cancers with KRAS p.G12C Mutation

June 24, 2021

N Engl J Med 2021; 384:2371-2381

DOI: 10.1056/NEJMoa2103695

 

概要

背景

ソトラシブは、KRAS p.G12C変異を有する進行性固形がん患者を対象とした第1相試験において、抗腫瘍効果を示し、特に非小細胞肺がん(NSCLC)患者において有望な抗腫瘍効果が認められた。

 

方法

単一グループの第2相試験において、標準的な治療歴のあるKRAS p.G12C変異の進行期非小細胞肺がん患者を対象に、ソトラシブを1日1回960mgの用量で経口投与し、その効果を検討した。主要評価項目は、独立した中央審査による客観的奏効(完全奏効または部分奏効)であった。主な副次評価項目は、奏効期間、疾患コントロール(完全奏効または部分奏効、病勢安定)、無増悪生存期間、全生存期間、安全性であった。探索的バイオマーカーとソトラシブの効果との関連性を評価した。

 

結果

126名の登録患者の多数(81.0%)は、プラチナベースの化学療法および、PD-1またはPDL-1阻害剤による治療を受けていた。中央審査において、124名の患者がベースラインで測定可能な病変を有しており、治療効果を評価した。客観的奏効は46人(37.1%、95%信頼区間[CI]、28.6~46.2)に認められ、そのうち完全奏効は4人(3.2%)、部分奏効は42人(33.9%)に認められた。奏効期間の中央値は11.1カ月(95%CI,6.9~未達)であった。病勢制御は100名の患者(80.6%、95%CI、72.6~87.2)に認められた。無増悪生存期間の中央値は6.8カ月(95%CI、5.1~8.2)、全生存期間の中央値は12.5カ月(95%CI、10.0~未達)であった。治療関連の有害事象は126名中88名(69.8%)に発生し、うち25名(19.8%)にグレード3の事象、1名(0.8%)にグレード4の事象が発生した。PD-L1の発現、腫瘍変異負荷(TMB)、STK11またはKEAP1、TP53の同時変異に応じて定義されたサブグループで奏効が認められた。

 

結論

今回の第2相試験では,KRAS p.G12C遺伝子変異を有する前治療歴のある非小細胞肺がん患者において,新たな安全性懸念はなく、ソトラシブ療法による持続的な臨床効果が得られた。(Amgen社および米国国立衛生研究所から資金提供あり。CodeBreaK100試験、 ClinicalTrials.gov番号、NCT03600883。)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

肺がんについても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

 

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