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抗TSLP抗体(テゼペルマブ)が重症喘息に有効(NEJM誌の報告)

[2021.06.13]

気管支の表面は一層の細胞による非常に薄い粘膜で覆われています。気管支粘膜は眼球の表面(眼球結膜)や口内の表面(口腔内粘膜)よりもずっと薄く、もろいものです。

 

気管支粘膜は呼吸によって取り込まれる空気を介して、外界に直接さらされています。異物やアレルゲン、ウイルス、細菌などが、非常に薄くてもろい気管支粘膜に付着し、粘膜上皮細胞に傷をつけます。

 

傷ついた気管支粘膜の細胞は、外敵を排除するために、助けを呼びます。サイトカインと呼ばれるタンパク質を気管支粘膜の上皮細胞が分泌することで、リンパ球などの免疫細胞を気管支粘膜に呼び寄せます。そのサイトカインの一つにTSLPがあります。

 

TSLPはILC2というリンパ球の一種を活性化し、ILC2は好酸球を刺激、増殖させ、自然免疫反応を誘導します。外敵を排除するために、もともと備わっているこのシステムも過剰に働きすぎると、ヒトに悪影響を及ぼします。喘息が発症する原因の一つに、TSLPが関与する機序があることが知られています。

 

今回紹介する論文では、TSLPを阻害する抗体テゼペルマブの治療効果を評価した臨床研究を発表しています。その結果はPositiveであり、素晴らしいものではないかと思われます。

 

偽薬(プラセボ)と比較すると、テゼペルマブは年間の喘息増悪発生率を56%減少させました(2.10⇨0.93)。その他の評価項目でも有意差がでており、血中好酸球が低値の患者でも有効でした。TSLPは好酸球性炎症だけではなく、非好酸球性炎症にも関わっていることを示唆しています。

 

約2年前の当ブログで同じ生物学的製剤であるデュピルマブの承認時臨床試験を紹介しました。

 

中等症から重症のコントロール不良喘息にデュピルマブ(デュピクセント®)は有効(LIBERTY ASTHMA QUEST試験)」

 

デュピルマブは、喘息増悪の年間発生率をプラセボより47.7%減少させました(0.87⇨0.46)。

血中好酸球数が増多している患者では、デュピルマブにより喘息増悪の年間発生率が65.8%減少とさらに有効性が増しました(1.08⇨0.37)。テゼペルマブの効果が血中好酸球数に関係なかったことと対照的です。

 

現在日本で使用できる気管支喘息に対する生物学的製剤(抗体医薬)は、オマリズマブ(ゾレア®、2009年承認)、メポリズマブ(ヌーカラ®、2016年承認)、ベンラリズマブ(ファセンラ®、2018年承認)、デュピルマブ(デュピクセント®、2019年承認)の4種類があります。テゼペルマブが5種類目として日本でも使用できる日がくるのは間違いなさそうです。

 

Tezepelumab in Adults and Adolescents with Severe, Uncontrolled Asthma

成人および青年におけるコントロール不良な重症喘息患者におけるテゼペルマブ

 

May 13, 2021

N Engl J Med 2021; 384:1800-1809

DOI: 10.1056/NEJMoa2034975

 

概要

背景

Tezepelumab(テゼペルマブ)は、喘息の発症に関与する上皮細胞由来サイトカイン(TSLP;胸腺間質性リンパ球新生因子)を阻害するヒトモノクローナル抗体である。コントロール不良の重症喘息患者におけるTezepelumabの有効性と安全性については,さらなる評価が必要である.

 

方法

多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の第3相試験を実施した.12~80 歳の患者を登録し、Tezepelumab(210 mg)またはプラセボを 4 週間ごとに 52 週間にわたり皮下投与する群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、52 週間での年間喘息増悪率であった。この評価項目は、ベースラインの血中好酸球数が300/μL未満の患者においても評価された。副次的評価項目は1 秒量(FEV1)と喘息コントロール質問票-6(ACQ-6;範囲 0[障害なし]~6[最大障害])、喘息QOL質問票(AQLQ;範囲 1[最大障害]~7[障害なし])、喘息症状日記(ASD;範囲は0[症状なし]~4[最悪の症状])のスコアであった。

 

結果

全体で1061名の患者が無作為化を受けた(529名がTezepelumab投与群、532名がプラセボ投与群に割付)。年換算の喘息増悪率は,Tezepelumab群で0.93(95%信頼区間[CI],0.80~1.07)、プラセボ群で2.10(95%CI,1.84~2.39)であった(率比,0.44;95%CI,0.37~0.53;P<0.001)。血中好酸球数が 300 /μL未満の患者では、年率換算でTezepelumab群 で 1.02(95% CI,0.84~1.23)、プラセボ群で 1.73(95% CI,1.46~2.05)であった(率比,0.59;95% CI,0.46~0.75;P<0.001)。52 週目における、気管支拡張剤投与前FEV1(0.23 対 0.09L,差 0.13L;95% CI,0.08~0.18;P<0.001)および ACQ-6 スコア(-1.55 対 -1.22;差 -0.33,95%CI、-0.46から-0.20、P<0.001)、AQLQスコア(1.49対1.15;差0.34;95%CI,0.20から0.47、P<0.001)、ASDスコア(-0.71対-0.59;差-0.12;95%CI,-0.19から-0.04;P=0.002)について,、プラセボ群よりもTezepelumab群のほうが改善した.有害事象の頻度や種類については,両群間に有意な差はなかった。

 

結論

Tezepelumabを投与されたコントロール不良の重症喘息患者は、プラセボを投与された患者と比較して、喘息の増悪が少なく、肺機能、喘息コントロール、健康関連QOLが良好であった.(AstraZeneca社とAmgen社が資金提供。NAVIGATOR試験 ClinicalTrials.gov番号、NCT0334727)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

喘息についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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