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喘息診療ガイドラインの次の展開(Lancet Respir Med.の総説より)その1

[2021.05.09]

 

喘息ガイドラインは、喘息の専門家が集まって作成されたものであり、1年から数年に1回改訂されています。専門医、非専門医、プライマリーケア医にかかわらず、そのガイドラインに沿って、患者さんの診療にあたることが求められ、大きく外れるような治療は慎まなければなりません。例えば、喘息の治療では吸入コルチコステロイド(ICS)がもっとも基本となる薬であり、どんな患者さんでもICSを投与しないことはありません。

 

今回紹介するLancet Respiratory Medicineの総説(Viewpoint)では、現在のガイドラインについての問題点を挙げ、プライマリーケアにおける喘息の新たな診療方針について提案しています。

以下、本文を抜粋し、解説を加えます。

 

喘息を診断する際の誤った考え方:

喘息の診断をするために、可逆性気流閉塞の証明が基本的に必要とした場合、次のような誤った仮定をもとにしている。

・可逆性気流閉塞の検査法は、専門家以外の環境でも実行可能であり、信頼できる。

・可逆性気流閉塞は、気道の2型炎症を反映している。

・この気流閉塞とそれに伴う症状の消失は、有効かつ達成可能な治療目標である。

・気流閉塞および関連する症状は、喘息発作と同じ病態である。気流閉塞と症状を改善すれば、 同時に喘息発作のリスクを軽減することになる。

 

⇨気道狭窄があり、それが変動性で可逆性であることが喘息の定義となっています。しかし、それをプライマリーケアで証明することは至難の技なのです。気流閉塞は2型炎症のみが原因ではなく、非2型炎症が原因となりうることも分かってきています。そして、気流閉塞による症状が消失すれば、喘息発作を起こさないかというとそうではありません。入院するような重症の喘息発作(増悪)をおこす数日前には全く症状がなかったというケースも少なくないのです。

 

プライマリーケアにおける可逆性気流閉塞の検査は実施困難:

気流閉塞の検査(すなわち、スパイロメトリーと気管支拡張剤による可逆性試験、および自宅でのピークフローモニタリング)は、非専門医の環境では実施および解釈が困難であるという現実がある。気流閉塞検査のほとんどは、感度が不十分である。より高感度で特異的な検査(すなわち、気道過敏性の評価)は、安全性にも配慮が必要であり、専門施設以外では容易に行うことができない。

 

実際の臨床現場では、喘息を示唆する症状があるが肺機能正常または正常に近い患者を喘息ではないと診断するのは難しいということである。その結果、プライマリーケアの臨床医にとって、吸入コルチコステロイドによる治療を試みる以外の選択肢がほとんどない。

 

しかし、このアプローチには欠陥がある。なぜなら、喘息に類似する病気は時間の経過とともに自然に改善する傾向があり、そのような治療が有効であったと誤解されてしまうからである。 そのため、正しい診断が遅れたり、初期診断が疑われないために不適切な治療がいつまでも続けられたり、喘息が原因ではない症状が悪化して不適切な治療が行われたりする。

 

⇨プライマリーケア医にとって喘息を正確に診断することは簡単ではありません。夜間喘鳴をともなう咳など、典型的な症状があれば、診断と治療を兼ねて吸入薬を処方し、治療が奏効すれば喘息の診断を確定するという2段階をとることがプライマリーケアではほとんどだと思われます。しかし、喘息治療が効いたのか、ウイルス感染など喘息以外の病気が自然軽快したのか、判断は簡単ではありません。

(その2に続く)

 

以下は論文の要約を全文翻訳したものです。

Balancing the needs of the many and the few: where next for adult asthma guidelines?

多数派と少数派のニーズのバランスをとる:成人喘息ガイドラインの次の展開は?

Shaw DE, Heaney LG, Thomas M, Beasley R, Gibson PG, Pavord ID.

Lancet Respir Med. 2021 Feb 24:S2213-2600(21)00021-7. 

DOI: 10.1016/S2213-2600(21)00021-7

概要

喘息は他の多くの慢性疾患とは異なり、治療管理する上でほとんどの重要な決定が一般開業医や救命救急医など非専門医の下で行われる。プライマリーケアでの診断は、特徴的な症状パターンや喘息発作を確認することで行われ、時には基本的な肺機能検査で補完することもある。その後の管理は症状の評価と、簡易的な肺機能検査による気流閉塞測定に基づいて行われ、個々の患者に応じた管理はほとんど行われていない。このアプローチには欠陥がある。なぜなら、特異的な症状があるわけではなく、変動性のある気流閉塞が検出できないため、自信を持って喘息の診断を除外することが困難な場合が多いからである。さらに、たとえ正しく診断されたとしても、炎症と気流閉塞、症状の間には関連性がないため、症状に基づいて喘息を管理する一般的な段階的アプローチは、かなりの割合の患者で成功しないと考えられる。その結果、有効な治療法が非効率的に使用され、結果が想定より悪くなることが多い。喘息の診断と管理するために集団ベースのアプローチや個別化されたアプローチを用いるのではなく、キーとなる治療可能な発症特徴を客観的に評価することで治療法を決定する、新しい複合的なアプローチを推奨する。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

喘息についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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