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ヨーロッパの都市によって、大気汚染による早期死亡率が異なる(Lancet Planetary Health誌より)

[2021.02.14]


直径2.5μm以下の大気中微小粒子状物質(PM2.5)に長期間曝露されることにより、2015年には世界で400万~900万人の早期死亡に至ったと推定され、PM2.5は死亡に関する危険因子の5位にランク付けされています(Global Burden of Disease, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2015)。

 

今回紹介する論文では、PM2.5とNO2の大気汚染濃度がWHOの推奨するレベル(PM2.5は10μg/m3、NO2は40μg/m3)以下を達成した場合に、予防可能と考えられる早期死亡がどれぐらいあるかを、ヨーロッパ969都市と、31カ国の47大都市で推定しています。

 

その結果、死亡率は都市によって大きく異なっており、大気汚染濃度をWHOガイドラインよりさらに低くすることにより、PM2.5の年間早期死亡率を最大15%、NO2の年間早期死亡率を最大7%減少させることができると試算されました。

 

イタリア北部、チェコ共和国、ポーランド、ギリシャ、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、クロアチア、ブルガリア、ルーマニア、マルタの都市でPM2.5濃度が高く、死亡率が高くなっていました。北欧の都市やアイスランドではPM2.5が低く死亡率も低くなっていました。

 

私見ですが、ヨーロッパ内陸部の方がPM2.5濃度が高く、イギリスや北欧など海が近いとPM2.5が低いようであり、地形や海の影響をPM2.5は受けるのかもしれません。

 

 

 

ヨーロッパの都市での大気汚染による早期死亡:健康影響の評価

Premature mortality due to air pollution in European cities: a health impact assessment

The Lancet Planetary Health

Published:January 19,2021

DOI:https://doi.org/10.1016/S2542-5196(20)30272-2

 

概要

背景

大気汚染は、世界における罹患率や死亡率の主な環境原因となっている。一般的に、都市は大気汚染と病気の多発地域となっています。しかし、都市レベルにおいて大気汚染が健康にどの程度影響しているか、正確にはまだほとんどわかっていない。我々の目的は、ヨーロッパの約1,000の都市において、大気汚染のよる予防可能な年間死亡者数の割合を推定することである。

方法

ヨーロッパの 969 都市と 47 の大都市において、大気汚染曝露(PM2.5 と NO2)が成人居住者(20 歳以上)の自然死に及ぼす影響を推定するために、2015 年での健康影響への評価を定量的に行った。Urban Audit 2018のデータセットから都市および大都市のデータを回収し、世界の人の居住層の居住人口に基づく2015年データを250mグリッドセルレベルで分析した。もしWHOの推奨値(すなわち、PM2.5は10μg/m3、NO2は40μg/m3)が達成され、ヨーロッパの都市で2015年に測定された最低値(すなわち、PM2-5は3.7μg/m3、NO2は3.5μg/m3)まで大気汚染濃度が低下した場合に予防可能と考えられる、年間の早期死亡負荷を推定した。大気汚染曝露に関連する死亡負荷を人口と年齢で標準化し、それに基づいて都市を集団にしてランク付けした。さらに、我々の推定値の信頼性を検証するために、いくつかの不確実性解析と感度解析を行った。

調査結果

WHOの大気汚染ガイドラインを遵守することで、PM2.5の曝露による年間51,213人(95% CI 34,036~686,882)の死亡を防ぎ、NO2曝露による年間900人(0〜2,476)の死亡を防ぐことができた。最低の測定濃度まで大気汚染を低減すれば、PM2.5曝露では年間124,729人(83,332〜166,535人)の死亡を防ぎ、NO2曝露では年間79,435人(0〜215,165人)の死亡を防ぐことができた。 予防可能な死亡率負荷には都市によって大きなばらつきがあり、最低の測定濃度であった場合、PM2.5では人口10万人あたり0~202人、NO2では人口10万人あたり0~73人であった。PM2.5の死亡率負荷が最も高かった都市は、ポーバレー(イタリア北部)、ポーランド、チェコ共和国であった。NO2の死亡率負荷が最も高かったのは、西欧・南欧の大都市と首都であった。感度解析の結果、曝露の応答機能の選択に対しては特に高感度であったが、ベースライン死亡率と曝露の評価方法の選択に対してはそれほど感度は高くなかった。

解釈

ヨーロッパの都市では、大気汚染濃度を、特に WHO のガイドラインを下回る濃度に下げることで、毎年の早期死亡をかなりの割合で回避することが可能であった。死亡率は欧州の都市間でかなりの差があった。それは、大気汚染を減らし、持続可能で住みやすく健康的な地域社会を実現するために、もっと早急に政策的措置が必要である場所がどこかを示している。都市の健康をより一層保護するためには、現行のガイドラインを改訂し、大気汚染濃度をさらに低下させる必要がある。

資金提供:スペイン科学技術革新省、内部ISグローバル基金。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

大気汚染についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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