インフルエンザ下気道感染による死亡はどれくらいあるのか?
では、毎年冬になると流行る季節性インフルエンザウイルスの死亡率はどれぐらいなのでしょうか。
今回紹介する論文では、インフルエンザウイルスに罹患すると合併することの多い下気道感染(気管支炎、肺炎など)について、罹患率、入院率、死亡率を全世界の国と地域で調査しています。全世界のデータを集めるのに莫大な資金が必要だったと思われますが、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツの慈善基金団体(Bill & Melinda Gates Foundation)が資金提供しています。
2017年における全世界のインフルエンザ下気道感染による死亡者数は14.5万人であり、人口10万人あたり1.9人でした。年齢別解析では70歳以上の高齢者で死亡率が高く、人口10万人あたり16.4人でした。国地域別解析では東ヨーロッパで死亡率が高く、人口10万人あたり5.2人でした。
日本のデータも示されており、インフルエンザ下気道感染による死亡者数は7,000人であり、人口10万人あたり5.1人でした。日本での死亡率は東ヨーロッパとほぼ同じであり、米国の1.1人、西ヨーロッパの2.1人と比べかなり高いことが分かります。おそらく日本では高齢化が進んでおり、高齢者のインフルエンザ感染および重症化が多いのではないかと思われます(私見)。
全世界のインフルエンザ下気道感染による死亡者数を年齢別にみると、0~4歳、80~89歳にピークがあります。本文でも述べられているように、死亡数の多いこの年齢層にインフルエンザをうつさないことが死亡者を減らすために重要と考えられます。毎年受けるインフルエンザワクチンは自分が罹患しないためもありますが、重症化しやすい乳幼児や高齢者にインフルエンザを伝染させないためでもあるのです。妊婦のまわりにいる家族が風疹ワクチンを打つのと同様の考え方です。
インフルエンザ下気道感染による死亡はどれくらいあるのか?世界疾病負荷研究(GBD 2017)の解析
Lancet Respir Med. 2019 Jan; 7(1): 69–89.
doi: 10.1016/S2213-2600(18)30496-X
要旨
背景:
インフルエンザの疾病負荷は歴史的大流行と将来の大流行の脅威との関連でよく議論される。しかし、毎年、下気道感染およびその他の呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)といった疾病負荷は季節性インフルエンザに起因している。世界疾病負荷研究(GBD)2017は、疾病および身体障害を総合し、関連する健康被害を定量化するための体系的で科学的な取り組みである。この論文では、インフルエンザに起因すると思われる下気道感染に焦点を当てる。
方法:
GBD 2017の一環として、1990年から2017年までのインフルエンザに起因する下気道感染の発生率、入院数、死亡率を国別、地域別、年齢別にモデル化した。下気道感染の発生率、入院数、死亡率を最初に推定し、そしてその一部をインフルエンザよるものとする仮説的なアプローチをとった。
所見:
2017年の全年齢の死亡のうち、145,000人(95%不確定範囲[UI] 99, 000~200,000)がインフルエンザによる下気道感染が死因と考えられた。インフルエンザによる下気道感染の死亡率は、70歳以上の成人で最も高かった(10万人あたり16.4人の死亡 [95%UI 11.6~21.9])、そしてすべての年齢層の中で最も高い死亡率は東ヨーロッパで見られた(人口10万人あたり5.2 [95%UI 3.5~7.2])。インフルエンザによる下気道感染は、9,459,000件(95%UI 3,709,000~22,935,000)の入院、および81,536,000日間の入院期間(24,330,000~259,851,000)の原因となったと推定された。下気道感染者の11.5%(95%UI 10.0~12.9)はインフルエンザに起因すると推定された。これは、54,481,000件(38,465,000~73,864,000)の下気道感染、8,172,000件(5,000,000~13,296,000)の重症下気道感染に相当する。
解釈:
インフルエンザ下気道感染の疾病負荷を包括的に今回評価したことにより、世界の健康に対し年間でインフルエンザが実質的にどの程度影響したかを示した。将来可能性のある世界的流行に備えて準備計画は重要になるが、季節性インフルエンザ下気道感染による健康損失は見逃されるべきではなく、ワクチン使用を考慮されるべきである。インフルエンザ予防対策を改善するための努力が必要である。
資金提供:ビル&メリンダ ゲイツ財団。
日本におけるインフルエンザ下気道感染による死亡率は高く、近隣の中国や韓国、北朝鮮よりかなり高いことがわかります。