新型コロナの論文

コロナを含む急性気道感染への鼻スプレーと行動療法の効果を通常の治療と比較

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介

院長による論文概説

COVID-19が5類感染症となってから、社会活動が活発化し、それに伴ってCOVID-19をはじめとするさまざまな感染症が増加しています。COVID-19が2類相当だった頃のマスク警察に代表される社会の閉塞感や活動制限の時期に戻りたい人はいないと思いますが、高齢者や重症化リスクのある人が風邪を引くと致命的になる可能性があるため、何らかの対策を考える必要があります。今回の論文では、その解決策の一つとなり得る臨床試験結果が提示されています。英国の一般開業医332診療所で、無作為化対照非盲検並行群間比較試験が実施されました。

併存疾患または一つ以上の危険因子を持つ人(重篤な疾患や投薬による免疫低下、心臓疾患、喘息や肺疾患、糖尿病、軽度の肝障害、脳卒中や重度の神経障害、肥満、または65歳以上)、または通常の年(つまり、COVID-19パンデミック以前の任意の年)に呼吸器感染症を3回以上起こした人を対象としました。参加者13,799人を4群に分け、通常ケア、ジェル状スプレーの点鼻、生理食塩水スプレーの点鼻、または身体活動とストレス対処を促すデジタル介入に無作為に割り付けました。

ジェル状スプレー群または生理食塩水スプレー群に割り当てられた参加者には、最初にスプレーが2本ずつ提供されました。ジェル状スプレーはVicks First Defenceスプレー(Proctor and Gamble, Harrogate, UK)、生理食塩水スプレーはSterinasel(Earol, Glasgow, UK)が使用されました。スプレーを使用するタイミングは以下の通りです:

・病気の最初の兆しがあったとき(症状がなくなるまでの2日間)

・感染にさらされる可能性があった後(例:公共交通機関、スーパーマーケット、カフェ、パブの利用後)

・長時間の曝露後(例:病気に罹患している人との密接な接触や同居、その密接な接触者が回復するまで)

身体活動とストレス対処を促すデジタル介入とは、具体的には呼吸器感染症の影響や身体活動とストレス対処がどのように呼吸器感染症を予防できるかに関する簡単なコンテンツをウェブ上で閲覧し、その後、身体活動とストレス軽減を支援する2つのオンライン教材を閲覧してもらうというものです。この方法は医療者側の負担が少なく、実行可能性が高いとされています。また、参加者には活動量のモニターに役立つ安価な歩数計も送られました。

主要評価項目は、過去6ヵ月間の自己申告による呼吸器疾患(咳、風邪、咽頭痛、副鼻腔・耳部感染、インフルエンザ、COVID-19)による合計罹病期間でした。通常ケア群の参加者の罹病日数は平均8.2日でしたが、ジェル状スプレー群では平均6.5日、生理食塩水スプレー群では平均6.4日と有意に短くなりました。行動的身体活動およびストレス管理ウェブサイトの利用を勧められた人では、通常のケアと比較して、罹患率はわずかながら有意に減少しましたが、罹患期間は減少しませんでした。

風邪を引いたかもしれないと思ったときに、生理食塩水を鼻腔内にスプレーするだけで罹病期間が1〜2日短縮され、抗菌薬の使用が減るのであれば、その効果は抗インフルエンザ薬のインフルエンザに対する効果とほぼ同じです。これは、日本でもすぐに導入したい方法です。まずは私自身で試してみたいと思っています。鼻腔スプレーは日本でまだ市販されていないため、花粉症の際に使用する鼻うがいでも代用できるかもしれません。

プライマリ・ケアにおける急性呼吸器疾患への鼻スプレーと行動介入の効果

  1. Nasal sprays and behavioural interventions compared with usual care for acute respiratory illness in primary care: a randomised, controlled, open-label, parallel-group trial

    Little, Paul et al.
    The Lancet Respiratory Medicine, Volume 12, Issue 8, 619 - 632
  2. DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(24)00140-1

要旨

背景

少数の研究結果から、点鼻薬、あるいは身体活動とストレス管理が呼吸器感染症の罹病期間を短縮しうることが示唆されている。本研究の目的は、通常ケアと比較して、鼻腔スプレーまたは身体活動とストレス管理を促進する行動介入が呼吸器疾患に及ぼす効果を評価することである。

方法

この無作為化対照非盲検並行群間比較試験は、英国の一般開業医332診療所で行われた。対象となったのは、呼吸器疾患による有害転帰のリスクを高める併存疾患または危険因子を少なくとも1つ有する(例:重篤な疾患または投薬による免疫低下、心臓疾患、喘息または肺疾患、糖尿病、軽度の肝障害、脳卒中または重度の神経障害、肥満[BMI 30kg/m2以上]、または65歳以上)か、または平常の年(すなわちCOVID-19パンデミック以前の任意の年)に自己申告による呼吸器感染症が3回以上であった、18歳以上の成人である。参加者は、コンピュータシステムを用いて、通常ケア(病気の対処に関する簡単なアドバイス)、ジェル状スプレー(感染の最初の兆候時または感染の可能性が生じた後に、1日6回まで鼻孔に2回噴霧)、生理食塩水スプレー(感染の最初の兆候時または感染の可能性が生じた後に、1日6回まで鼻孔に2回噴霧)、または参加者が身体活動とストレス対処を促すウェブサイトにアクセスする簡単な行動介入に無作為に割り付けられた(1:1:1:1)。 試験は部分的にマスクされた:治験責任医師も医療スタッフも治療割り付けを知らず、統計解析を行った治験責任医師も治療割り付けを知らなかった。参加者の情報を秘匿するため、スプレーにはラベルが貼られた。転帰は、参加者が記入した毎月の調査票および6ヵ月後の調査票のデータを用いて評価された。主要評価項目は、過去6ヵ月間の自己申告による呼吸器疾患(咳、風邪、咽頭痛、副鼻腔・耳部感染、インフルエンザ、COVID-19)による罹病日数合計とし、主要評価項目のデータが得られた無作為割り付け参加者全員を含む修正intention-to-treat集団で評価した。主な副次評価項目は、頭痛や顔面痛などの可能性のある有害事象と、無作為に割り付けられた参加者全員を対象に評価された抗菌薬の使用であった。本試験はISRCTN(17936080)に登録され、現在募集は終了している。

結果

2020年12月12日~2023年4月7日の間に、適格性をスクリーニングされた19475人のうち13799人が、通常ケア(n=3451)、ジェル状点鼻薬(n=3448)、生理食塩水点鼻薬(n=3450)、または身体活動とストレス対処を促すデジタル介入(n=3450)に無作為に割り付けられた。 11,612人の参加者が主要評価項目のデータが揃っており、主要評価項目の解析に含まれた(通常ケア群、n=2983;ジェルベーススプレー群、n=2935;生理食塩水スプレー群、n=2967;行動ウェブサイト群、n=2727)。通常ケア群の参加者の罹病日数は平均8-2日(SD 16-1)であったのに比べ、ジェル状スプレー群では罹病日数が有意に少なかった(平均6-5日[SD 12-8]); 調整罹患率比[IRR]0-82[99%CI 0-76-0-90];p<0-0001) および生理食塩水スプレー群(6-4日[12-4];0-81[0-74-0-88];p<0-0001)では有意に低かったが、行動ウェブサイトに割り当てられた群ではそうではなかった(7-4日[14-7];0-97[0-89-1-06];p=0-46)。最も多かった有害事象は、ゲルベース群における頭痛または副鼻腔痛であった: 通常ケア群では2556人中123人(4-8%);ゲルベース群では2498人中199人(7-8%)(リスク比1-61[95%CI 1-30-1-99];p<0-0001);生理食塩水群では2377人中101人(4-5%)(0-81[0-63-1-05];p=0-11);行動介入群では2091人中101人(4-5%)(0-95[0-74-1-22];p=0-69)であった。通常のケアと比較して、抗菌薬の使用はすべての介入群で低かった: ジェル状スプレー群ではIRR 0-65(95%CI 0-50-0-84、p=0-001)、生理食塩水スプレー群では0-69(0-45-0-88、p=0-003)、行動ウェブサイト群では0-74(0-57-0-94、p=0-02)であった。

解釈

どちらかの鼻腔スプレーを使用するよう助言することで、罹病期間が短縮され、スプレーと行動ウェブサイトの両方が抗菌薬の使用を減少させた。今後の研究では、このような単純な介入を広く実施した場合の影響について取り上げることを目指すべきである。

研究の意義

本研究以前のエビデンス

これまでの系統的レビューでは、カラギーナンというポリマーを使用した点鼻薬の小規模な試験が4件報告されているが、pHの緩衝化は行われていない。 Cochrane Database、PubMed、ScienceDirect、SpringerLink、Oxford Journals、Elsevier、Clinical Key、Wiley Online Library、Embaseの各データベースにおいて、開始時から2020年5月31日までに、英語で発表された研究を、検索語を用いて検索した: 検索語は「ι-carrageenan」、「carrageenan」、「nasal spray」、「common cold」、「placebo」、「clinical trial」であった。カラギーナンを含む点鼻薬の使用を支持するエビデンスはまちまちであり、症状の重篤度を軽減するエビデンスがいくつかあり、いくつかの試験では罹病期間が1日短縮した。緩衝pHの抗ウイルス点鼻薬を生理食塩水と比較した試験では、自然に発症した風邪の罹病期間が3日短縮した。 コクラン・レビューによると、身体活動は罹病期間の短縮に効果があり、追跡調査期間中の症状日数や症状の重症度に有意な効果があることが示されている。しかし、多くの試験はサンプルサイズが小さく(1377人が参加した14試験)、試験の質は概して低く、集中的な運動の監視が必要であった。レビューに含まれた2つの運動に関する試験では、マインドフルネスの8週間の指導付きコース(各セッションは2.5時間)の効果も評価され、対照群と比較して罹病日数が1~4日少なかったことが記録されている。

本研究の付加価値

鼻腔スプレーや行動介入に関する先行研究のほとんどは小規模であり、身体活動介入やストレス軽減介入はいずれも監視付きセッションを伴う集中的なもので、資源が限られているプライマリケアでの実施は困難であった。これは、容易に実施可能な介入に関する唯一の大規模で実用的な試験であり、広く利用される可能性がある。今回の研究では、行動的身体活動およびストレス管理ウェブサイトの利用を勧められた人では、通常のケアと比較して、罹患率は有意に減少したが、罹患期間は減少しなかった。減少率はわずかであったが(相対的減少率5%)、介入の拡張性が高いこと、呼吸器疾患のリスクが高い人(併存疾患および再発疾患の両方がある人)で効果が大きかったことを考慮すると、これは集団的に重要な影響を及ぼす可能性がある。いずれの点鼻薬も、通常の治療と比較して、全体の罹病期間を約20%短縮し、仕事や通常の活動の損失日数を20~30%減少させた。介入はすべて抗菌薬の使用を減少させ(相対リスク減少25%以上)、症状がより重篤な日数も減少させた。介入に対するアドヒアランスは中程度であったため、アドヒアランスを改善することでより大きな効果が得られる可能性は十分にある。さらなる研究は、これらの介入を実施する際のアドヒアランスを改善する戦略について取り組むべきである。

入手可能なすべてのエビデンスの意味

広く普及すれば、このようなシンプルで拡張可能な介入は、抗菌薬適正使用と呼吸器系ウイルスの影響の軽減において重要な役割を果たす可能性がある。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎81人のCT所見(Lancet Infect Dis誌より)

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介
[2020.03.14]

特に、COVID-19患者に濃厚接触した医療従事者など15人が、発熱やセキなど症状が出現する前に、新型コロナウイルス陽性であることが判明し、肺CTを撮っています。その15人はグループ1と名付けられました。つまり、新型コロナウイルスに感染し、症状が全く出現していないのに、肺CTでは陰影を認める人がいることを意味します。このグループ1のCT所見のパターンは、すりガラス状陰影がほとんどであり、陰影の範囲は2~3区域と狭い範囲に限局していました。

次に、本研究では57人(70%)の患者で、2回以上のCT撮影があることが特徴です。CT所見が一旦悪くなってもその後良くなっていく患者群(タイプ1)、CT所見が次第に悪くなっていく群(タイプ2)、次第に良くなっていく群(タイプ3)、2/8時点で画像に変化がない群(タイプ4)の4つのタイプに患者が分類されるとし、タイプ1と3は予後(治療経過)良好であり、タイプ2が予後不良で致死率が高いと報告しています。

 

下図は、タイプ1の患者CT画像の経過。B(Day7)で一旦画像所見が悪化するもその後改善している。

 

下図は予後不良とされるタイプ2のCT画像の経過です。

5日目、15日目、20日目と陰影の拡大がつづき、両側胸水が出現し、30日目に亡くなられています。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎81人のCT所見

Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study

The Lancet Infectious Diseases

Published:February 24, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30086-4

 VOLUME 20, ISSUE 4P425-434, APRIL 01, 2020

 

概要

 

背景

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染により引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎の患者集団が、中国武漢で連続して報告された。我々の目的は、疾患の全経過における異なる時点でのCT所見を記述することとした。

方法

武漢にある2つの病院のうちの1つに入院し、胸部CTスキャンを連続して受けたCOVID-19肺炎の患者(次世代シーケンシングまたはRT-PCRで確認)を後方視的に登録した。症状発現日と最初のCT検査日との期間をもとに患者を分類した:グループ1(無症状の患者; 発症前にCT実施)、グループ2(発症後1週間以内にCT実施)、グループ3( 1週間以上から2週間)、およびグループ4(2週間以上から3週間)。画像所見とその分布を解析し、4つのグループ間で比較した。

結果

2019年12月20日から2020年1月23日までに入院した81人の患者が後方視的に登録された。コホートには42人(52%)の男性と39人(48%)の女性が含まれ、平均年齢は49.5歳(SD 11.0)であった。肺病変のある肺区域数の平均は、全体で10.5(SD 6.4)、グループ1では2.8(3.3)、グループ2では11.1(5.4)、グループ3では13.0(5.7)、グループ4では12.1(5.9)であった。異常陰影の主なパターンは、両側(64例 [79%])および、肺末梢(44例 [54%])、辺縁不鮮明(66例 [ 81%])、すりガラス状濃度上昇(53例 [65%])であり、主に右肺下葉に認められた(病変のある849の肺区域のうち225 [27%])。グループ1(n = 15)では、主な陰影パターンは片側(9 例[60%])で、多発限局性の(8例 [53%])スリガラス状陰影(14例 [93%])であった。グループ2(n = 21)では、両側性(19例 [90%])、びまん性(11 [52%])、スリガラス状陰影優位(17 [81%])な病変に急速に悪化した。その後、スリガラス状陰影の範囲は減少し(グループ3の患者30人中17人 [57%]、グループ4の患者15人中5人 [33%])、コンソリデーションおよび混合パターンがよくみられるようになった(グループ3の12人 [40 %]、グループ4の8人 [53%])。

解釈

COVID-19による肺炎は、無症候患者においても胸部CTの異常を伴い、1〜3週間以内に限局性片側性陰影からびまん性両側性スリガラス状陰影へ急速に悪化し、コンソリデーションに陰影が変化もしくは同時に存在するようになる。画像所見の評価と、臨床および検査所見を組み合わせることにより、COVID-19肺炎の早期診断が可能になると考えられた。

資金提供

なし

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

オミクロン株流行期間中に、新型コロナの感染を確認して7日が経っても27%の人がコロナ抗原陽性だった(JAMA誌の報告)

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介

R4年9月に厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の患者に対する療養解除基準を見直しました。

R4年8月までは「有症状患者については、発症日から 10 日間経過し、かつ、症状軽快後 72 時間経過した場合には 11 日目から解除を可能」としてました。

9月7日より「有症状患者(入院していない場合)については、発症日から7日間経過し、かつ、症状軽快後 24 時間経過した場合には8日目から解除を可能とする。ただし、10 日間が経過するまでは、感染リスクが残存することから、自主的な感染予防行動の徹底をお願いする。」と変更されました。

つまり、8日目から10日目まではウイルスが残っており、周囲に感染させる可能性があるということです。感染拡大を防ぐことに重きを置くなら10日目まで隔離するべきでしょうが、10日間も仕事を休むと同僚の負担が増えるでしょうし、会社全体として機能が低下するかもしれません。7日間であれば、土日を除くと平日5日間ですので、同時に複数の会社員が発症しない限り会社が機能不全に陥ることは少なそうです。8−10日目までは会社でもできるだけ人と接触せず、マスクはもちろん、手指を頻回に消毒し、社内で感染を広げないようにする必要があります。

では、7日間の療養後にウイルスはどの程度残っているのでしょうか。

今回紹介する論文では、オミクロン株が流行している期間に新型コロナウイルスに感染した大学生アスリートを対象に調査しています。 その結果、264名の大学生(女性53%、平均年齢20.1歳)、268人の感染者(有症状66%、無症状34%)を対象として、7日目の検査を行った248人の感染者のうち、67人(27%)がコロナ抗原検査が陽性でした。

7日後のコロナ抗原陽性という結果が、生きているウイルスを示しているのか、もしくはウイルスは死んで抗原単位にバラバラになっていることを示しているのか、厳密にはわかりません。(厳密にはウイルスを培養しなければなりません。)

しかし、感染者の4人に一人は、感染して7日経ってもコロナ抗原が陽性であり、感染力があるとみなして、対応することが大切です。

 

オミクロン株流行中における、大学生アスリートがSARS-CoV-2に感染し7日間隔離後の迅速抗原検査陽性率

Prevalence of Positive Rapid Antigen Tests After 7-Day Isolation Following SARS-CoV-2 Infection in College Athletes During Omicron Variant Predominance

JAMA Netw Open. 2022;5(10):e2237149.

Published: October 18, 2022. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.37149

 

キーポイント

疑問点:

  米国疾病対策予防センターが推奨するSARS-CoV-2感染後の5日間の隔離期間は、感染者が検査で陰性となるのに十分か?

知見:

 このケースシリーズでは、SARS-CoV-2陽性と判定された268名の大学生アスリートが、最初に陽性判定を受けた7日後から迅速抗原検査を受けた。7日後の検査結果では、27%の人が陽性であり、症状のある人やオミクロンBA.2株に感染している人では陽性率が高かった。

意味:

この研究結果は、感染者が隔離から早期解除されることを防ぐために、隔離解除の決定を支援する迅速な抗原検査の使用が必要である可能性を示唆している。

 

概要

重要性:

米国疾病対策予防センターは、2021年12月にSARS-CoV-2感染の推奨隔離期間を10日間から5日間に短縮した。この短縮された隔離期間が終了しても、感染者が迅速抗原検査で陽性となり、潜在的に感染力を持つ可能性があるかどうかは不明である。

目的:

SARS-CoV-2 感染者のうち、診断後 7 日目以降も迅速抗原検査が陽性である人の割合を推定すること。

デザイン、環境、参加者: 

このケースシリーズは、2022年1月3日から5月6日の間にSARS-CoV-2陽性となった、全米大学体育協会Division Iの大学キャンパスの学生アスリートを分析したものである。参加者はそれぞれ診断後7日目から迅速抗原検査を受け、隔離期間を終了できるかどうかを判断した。

曝露:

SARS-CoV-2陽性と判定された7日後に迅速抗原検査を実施。

主な結果および測定: 

 迅速抗原検査の結果、症状の状況、大学の下水分析によるSARS-CoV-2株の同定。

結果 

 264名の学生アスリート(女性140名[53%]、平均年齢[SD]20.1歳[1.2]、範囲18~25歳)、268人の感染者(有症状177人[66%]、無症状91人[34%])が本研究に含まれた。7日目の検査を行った248人の感染者のうち、67人(27%;95%CI、21%-33%)が依然として検査陽性であった。有症状感染者は無症状感染者に比べて、 7 日目の検査陽性率が有意に高かった(35%; 95% CI, 28%-43% vs 11%; 95% CI, 5%-18%; P < .001)。BA.2変異株の患者は、BA.1変異株の患者と比較して、7日目に陽性となる可能性も有意に高かった(40%;95%CI、29%-51% vs 21%;95%CI、15%-27%;P = 0.007)。

結論と関連性:

 このケースシリーズでは、隔離7日後でも27%の人が迅速抗原検査陽性であったことから、米国疾病対策予防センターが推奨する5日間の隔離期間では、進行中の感染拡大を防ぐのに不十分である可能性が示唆された。これらの知見がもと多様な集団や後続する変異株にも当てはまるかどうかを判断するために、さらなる研究が必要である。

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

新型コロナワクチンで帯状疱疹発症リスクは上昇しない可能性(JAMA誌の報告)

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介

約半年前に下記にようなブログ記事を掲載しました。

新型コロナワクチン接種と帯状疱疹発症は関連があるかもしれない(JEADV誌の報告)(2022.05.29更新)

その後、コロナワクチンと帯状疱疹発症との関連については、複数の研究が実施され、以下のように相反する結果を示しています。

関連なしと報告した論文3本

1.Risk of herpes zoster reactivation after messenger RNA COVID-19 vaccination: a cohort study.   J Am Acad Dermatol. 2022;87(3):649-651. doi:10.1016/j.jaad.2021.11.025

2.Oropharyngeal shedding of herpesviruses before and after BNT162b2 mRNA vaccination against COVID-19.   Vaccine. 2021;39(40):5729-5731. doi:10.1016/j.vaccine.2021.08.088

3.Real-world safety data for the Pfizer BNT162b2 SARS-CoV-2 vaccine: historical cohort study.   Clin Microbiol Infect. 2022;28(1):130-134. doi:10.1016/j.cmi.2021.09.018

関連ありと報告した論文2本

1.Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine in a nationwide setting.   N Engl J Med. 2021;385(12):1078-1090. doi:10.1056/NEJMoa2110475

2.Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022;36(8):1342-1348. DOI: 10.1111/jdv.18184

 

今回紹介するコホート研究(レベル4)では、主要研究デザインとして自己対照リスク期間分析自己管理リスク間隔(SCRI)を使用しています。ワクチンを受けた一人一人にリスク期間とコントロール期間をそれぞれ設定し(下図)、各個人においてリスク期間での帯状疱疹リスクとコントロール期間での帯状疱疹リスクが比較されました。

リスク期間:3つのワクチンすべて1回目の接種後30日間、ファイザー/モデルナワクチン2回目の接種後30日間)

コントロール期間:最終リスク期間終了後30~60日間)

このようなデザインを設定した理由として、米国の請求データベースではCOVID-19の接種記録が不完全であるため、ワクチン接種しないと選択した人とワクチン接種した人では行動や健康状態に大きな違いがある可能性があるためと、論文に記載されています。

その結果、OVID-19 ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していませんでした(発生率比 0.91)。これで、「リスクは増加しない」とする論文の方が多数派(4対2)となりましたが、真実はどうなのでしょうか?

(ここからは私見です)

医学研究結果を見るときに、その研究のエビデンスレベルを意識して見なければなりません。疫学調査でよく使われるコホート研究のエビデンスレベルは、上から4番目で高くはありません(ちなみに専門家の意見は6番目とさらに低い)。帯状疱疹発症を評価項目として大規模な二重盲検無作為化比較試験(=エビデンスレベル2)が実施できれば、真実を知ることができるかもしれません。しかし、そのような試験の実施はほぼ不可能であり、有害事象(副作用)に関する研究の難しさがあると思われます。今回の研究では、コロナワクチンを接種した一人一人の経過の中で、帯状疱疹の発症を比較するという、少々無理のある研究デザインを採用しており、個人的には結果解釈に疑問符をつけてしまいます。ただ、補足研究として、インフルエンザワクチン接種者の帯状疱疹発症リスクと比較すると、コロナワクチン接種後の方がリスクが低いという結果を示しており、興味深いところです。

 

 

Assessment of Herpes Zoster Risk Among Recipients of COVID-19 Vaccine

COVID−19ワクチン接種者における帯状疱疹発症リスクの評価

JAMA Netw Open. 2022 Nov 1;5(11):e2242240. 

DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.42240

 

キーポイント

質問:

COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹のリスクは増加するのか?

所見:

米国の医療費請求データベースに含まれるCOVID-19ワクチン接種者2,039,854人を対象としたコホート研究において,自己対照リスク期間分析により,COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹の発生率比は0.91であることが明らかになった。また,補足のコホート解析では,パンデミック前およびパンデミック初期におけるインフルエンザワクチン接種と比較して,COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹のリスクは増加しないことが示された.

意味:

これらの知見は、COVID-19ワクチン接種が帯状疱疹のリスク上昇と関連しないことを示唆しており、COVID-19ワクチンの安全性プロファイルに関する懸念の解消に役立つと思われる。

概要

重要性:

COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹感染症が、多数の症例研究で報告されている。これらの症例が報告数の増加であるのか、あるいは真のリスク増加であるのかは不明である。

目的:

COVID-19 ワクチン接種が帯状疱疹リスクの上昇と関連するかどうかを評価すること。

デザイン、設定、参加者:

今回のコホート研究では、自己対照リスク期間(SCRI)デザインを用いて、COVID-19ワクチン接種後30日間または2回目のワクチン接種日までのリスク期間と、COVID-19ワクチン接種から離れたコントロール期間(各個人の最終記録接種日から60~90日目と定義し、コントロール間隔とリスク間隔の間に30日のwash-out期間を確保)の帯状疱疹のリスクを比較した。パンデミック前(2018年1月1日~2019年12月31日)またはパンデミック初期(2020年3月1日~2020年11月30日)にインフルエンザワクチンを接種した過去の2つのコホートにおいて補足的コホート解析を行い、COVID-19接種後の帯状疱疹リスクとインフルエンザ接種後の帯状疱疹リスクとを比較した。データは、米国国内の非識別化された請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)から入手した。2020年12月11日から2021年6月30日までに、緊急使用許可されたCOVID-19ワクチン(BNT162b2[ファイザー-ビオンテック]、mRNA-1273[モデルナ]、Ad26.COV2.S[ジョンソン&ジョンソン]のいずれかを受けた計2,039,854人を対象とした。SCRI解析に含まれた人は、COVID-19ワクチン接種コホートのサブセットであり、リスク期間またはコントロール期間のいずれかに帯状疱疹に罹患した。

曝露:

COVID-19ワクチンのいずれかの投与。

主な結果と測定法 :

International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems第10版(ICD-10)のコードで定義される帯状疱疹の発症と、診断から5日以内に新規抗ウイルス薬の処方または抗ウイルス薬の増量があったこと。

結果:

研究期間中にいずれかのCOVID-19ワクチン投与を受けた2,039,854人のうち、平均年齢(SD)は43.2歳(16.3)、1,031,149人(50.6%)が女性、1,344,318人(65.9%)が白人であった。これらのうち、帯状疱疹と診断された1,451人(平均年齢[SD]は51.6歳[12.6]、845人[58.2%]は女性)が、SCRIの主要解析に含まれた。SCRI 解析では,COVID-19 ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していなかった(発生率比,0.91;95% CI,0.82 ~ 1.01;P = 0.08)。補足コホート解析では、COVID-19 ワクチンは,パンデミック前のインフルエンザワクチン接種と比較して,帯状疱疹のリスクは上昇していなかった(COVID-19 ワクチン初回接種:ハザード比 [HR], 0.78 [95% CI, 0.70-0.86; P < .001]; COVID-19 ワクチン2 回接種:HR, 0.79 [95% CI, 0.71-0.88; P < 0.001]) 。パンデミック初期のインフルエンザワクチン接種との比較でも同様であった(COVID-19ワクチン初回接種:HR, 0.89 [95% CI, 0.80-1.00; P = .05]; 2回接種: HR, 0.91 [95% CI, 0.81-1.02; P = .09])。

結論と関連性:

本研究では、COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹発症リスク増加との間に関連は見られず、患者や臨床医のCOVID-19ワクチンの安全性プロファイルに対する懸念に対応することができると考えられる。

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

新型コロナワクチン接種と帯状疱疹発症は関連があるかもしれない(JEADV誌の報告)

新型コロナの論文

毎回聴いているニッポン放送の番組“辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!”の中で、帯状疱疹患者数が最近増加していると紹介されていました。

昨年(2021年)の6月のある日、私(院長)は右背部から胸部にかけて痛みを急に自覚しました。痛みのある部位を鏡で見てみると、少数ながら点状の水疱様発疹を見つけました。これは帯状疱疹だと自己診断し、すぐに薬を飲み始め、1週間程度で痛みは消失し、大事には至りませんでした。帯状疱疹の原因となるようなストレスや病気もなく、変わったことと言えば、発症4週間前に新型コロナワクチンの2回目を接種したことでした。

新型コロナウイルスと何でも結びつけてしまうのはいかがなものかとも思うのですが、自分が実際に経験したことなので気になって調べてみました。コロナワクチンと帯状疱疹に関連がないか論文検索をしたところ、少数例の症例報告が散見される中で比較的多数のコホート研究を見つけたので紹介します。(コホート研究は、臨床研究としてのエビデンスレベルは低めです。)

コロナワクチン接種をした110万人と、接種をしていない110万人のうち、60日以内に帯状疱疹を発症した人はそれぞれ2,200人と1,200人でした。つまり、コロナワクチン接種により、帯状疱疹になるリスクが1.8倍になったという計算になります。

2022/11/27追記 相反する研究結果も報告されており、こちらの記事も参照してください。

新型コロナワクチンで帯状疱疹発症リスクは上昇しない可能性(JAMA誌の報告)

気になるのは、帯状疱疹の発症リスクが上がる原因です。まず、一つ注意しないといけないのは、新型コロナワクチンに限らず、インフルエンザワクチンやA型肝炎ワクチンの接種後でも帯状疱疹が発症した例が報告されていることです。帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化するメカニズムはまだよくわかっていません。ストレスや高齢、免疫抑制剤の使用、化学療法、放射線療法などが帯状疱疹を誘発するのではないかといわれており、これらに共通するのは免疫力の低下です。ワクチンを接種されると、ヒトの体内においてVZVに対する自然免疫または細胞免疫が一時的に低下することにより、VZVが再活性化し帯状疱疹が惹き起こされるという仮説が立てられています。

世界中で同じワクチンが同時期に何億人という単位で接種された経験は歴史上初めてです。ワクチン接種人数が多いと、稀な副反応であっても症例数が多くなり、話題になるくらい目立つようになったということでしょうか。新型コロナワクチンが、他のワクチンよりも帯状疱疹を起こしやすいかどうかは今後さらなる研究が必要です。

100万人以上のCOVID-19ワクチン接種から得られた実臨床エビデンスは、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化と一致している
Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus
J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022 Apr 26;10.1111/jdv.18184.

DOI: 10.1111/jdv.18184

概要
背景
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化は、ヒトの帯状疱疹の原因となり、ワクチンによるまれな副反応となりうる。最近、COVID-19ワクチン接種後の症例が報告されている。

目的
本研究の目的は、リアルワールドデータに基づいて、COVID-19ワクチン接種後に帯状疱疹の発生頻度の増加が認められるかを大規模コホートで評価することであった。仮説として、COVID-19ワクチンを接種した対象者(コホートⅠ)と未接種者(コホートⅡ)で帯状疱疹の発生率が有意に高くなると仮定した。方法TriNetXデータベースからワクチン接種者1,095,086人と非接種者16,966,018人の初期コホートを検索し、交絡因子バイアスを軽減するために年齢と性別をマッチングさせた。

結果
マッチング後において、各コホートには1,095,086人の患者が含まれた。ワクチン接種群(コホートⅠ)ではCOVID-19ワクチン接種後60日以内に2,204人が帯状疱疹を発症したのに対し、コホートⅡではそれ以外の理由(つまりワクチン接種以外)でクリニックを受診後60日以内に1,223人が帯状疱疹と診断された。帯状疱疹の発症リスクはコホートⅠで0.20%、コホートⅡで0.11%と算出された。この差は統計学的に極めて有意であった(P < 0.0001; log-rank検定)。リスク比とオッズ比はそれぞれ、1.802(95%信頼区間[CI]=1.680;1.932)および1.804(95%CI=1.682;1.934)であった。

結論
仮説と一致して、COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹の高い発生率が統計的に検出された。したがって、帯状疱疹の発症はCOVID-19ワクチンのまれな副作用である可能性がある。VZV再活性化の分子的根拠はまだ不明であるが、VZV特異的な細胞性免疫の一時的な低下が、ワクチン接種後の帯状疱疹の病理にメカニズム的に関与している可能性がある.なお、VZVの再活性化は、感染症や他のワクチンでも確立された現象である(つまり、この有害事象はCOVID-19に特異的なものではない)。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです