肥満が進むと、肺機能が低下していくのが速い:Thorax誌より
お相撲さんが取組で勝利したあと、NHKのアナウンサーにインタビューされている様子をみると、尋常ではない速さで呼吸をしています。質問にもまともに答えられていません。お相撲さんはトレーニングしているので、心肺機能が普通の人より劣っているとは思えません。しかし、同じ無酸素運動である短距離陸上選手の試合後インタビューと比較して、お相撲さんの息切れはひどいように思います。あの巨大な体で相撲をとるのに見合った酸素を取り込むためには、もっと大きな肺が必要なのでしょう。でも、お相撲さんはお腹が大きいため、横隔膜が肺の方へ押し上げられて肺が十分に広げることができず、呼吸の回数を速くすることで補っているのだと考えられます。
普通の体格の人が、誤った生活習慣のため、年々体重が増加して、お相撲さんのような体格になったとしましょう。相撲のようなトレーニングをしているわけではないので、坂を上ったり早歩きしたりといった軽い運動でも酸素が足りなくなり、息切れするようになります。
今回紹介する論文では、20歳から44歳の参加者を20年間にわたり体重と肺機能を検査して、その関連を調べています。年々体重が増加していく人は、肺機能低下のスピードが加速され、どんどん肺機能が悪くなっていきました。この結果を説明可能なメカニズムが論文中に2つ挙げられています。
第一に、体重が増加すると、機械的に肺機能が影響を受けます。腹部および胸部に脂肪組織があると、吸気時に肺が拡張するためのスペースが少なくなり、肺活量を低下させます。吸気量が減少するにともない、呼気流量も低下します。男性は女性よりも腹部に脂肪組織を多く蓄積する傾向があるため、男性の肺機能の方が低下しやすいことの説明にもなります。
第二に、脂肪組織は炎症性メディエーターを発生するため、肺組織が損傷され気道径が狭くなると考えられています。
肥満が進むと、肺機能が低下していくのが速い
Peralta GP, et al. Thorax 2020;0:1–8.
http://dx.doi.org/10.1136/thoraxjnl-2019-213880
要旨
背景
短い観察期間での若年成人において体重増加にともない著しく肺機能が低下すると、過去の研究で報告されている。本研究の目的は、住民を対象とした欧州共同体呼吸器健康調査(ECRHS)のデータを使用し、成人20年間の経過で、体重の増減で肺機能が変化するかを推定することとした。
方法
20〜44歳の研究参加者3673人を、3つの研究期間(1991〜93年、1999〜2003年、2010〜14年)において、39〜67歳になるまで繰り返し体重測定と肺機能測定(努力肺活量(FVC)、1秒量(FEV1))を行った。ベースラインでの体格指数(BMI)のカテゴリーと20年間の体重変化をもとに、被験者を体重変化プロファイルに分類した。平均人口で一般化した推定方程式を使用して、体重変化プロファイルの関数として経時的な肺機能変化量を推定した。
結果
正常なBMIを持つ個人では、ベースラインでの過体重と肥満、フォローアップ期間中の中程度(0.25–1 kg /年)および高度(> 1 kg /年)の体重増加とFVCおよびFEV1の加速的な低下と関連していた。ベースラインで正常なBMIとその後の体重変化が安定(±0.25 kg /年)していた参加者と比較して、フォローアップ中の体重増加が大きい肥満者では、25歳時の推定FVC量が同様にもかかわらず、65歳時の推定FVCがー1011 mL(95%CI ―1.259からー763)であった。ベースラインでの肥満者がその後体重減少(<-0.25 kg /年)すると、FVCおよびFEV1の低下が減弱していた。体重変化状況とFEV1 / FVC低下との間に関連性は認めなかった。
結論
20年以上にわたって中程度および高度に体重が増加すると、肺機能低下が加速していた。一方、体重が減少すると肺機能低下スピードは減弱していた。成人の人生において、良好な肺機能を維持するには、体重増加をコントロールすることが重要である。